「ねえ、ムサシくんたちって中学の頃から一緒なの?」

不意に訊いた姉崎の言葉に顔を上げれば、短い茶色の髪が目の前で揺れていた。
一呼吸置いて姉崎は続ける。 「栗田くんとヒル魔くんと、」
ああ、と肯くと、そっかやっぱり。仲いいもんね、と笑う。
こんなにも近くでこんな顔を見たのは初めてかもしれないなと思った。

「ヒル魔くんて昔からああなの?」
「ん?」
「銃刀法違反」
姉崎とヒル魔の毎度のやり取りを思い出して思わず笑った。 返事はこれで十分だろう。
俺の意図する所を掴んだように、姉崎は少しだけ眉を寄せ困ったような呆れたような顔をする。
「本当に…あれだけはどうにかならないものかしら」
「あー、」
どう言っていいかわからず苦笑する。毎度のやり取りと、ヒル魔という男を知っているだけに。
言葉を濁したことに気を悪くした様子も見せず、姉崎は続ける。

「私が言っても聞くどころか相手にもしないし。かといって他の風紀委員の人でも同じみたいだし」

姉崎はそう言うが、他の風紀委員がヒル魔に向かっていくところなどついぞ見かけた事はない。
ヒル魔の風貌も然ることながら、あの男の握る脅迫手帳を前に歯向かおうというつわものは、風紀委員の中にもそういないのだろう。それに気付いているのかいないのか、尚更姉崎の苦労が忍ばれる。

その脅迫手帳の脅威が本当のところ何処までのものなのか、それなりに付き合いの長い俺にだって知れたものじゃない。 一見平和そうな学校生活の裏で何が起こっているかなど窺い知りようもない。
しかし実際のところ、水面下の惨状を別にすれば少なくとも大きな被害は無い。もはや奴がこの学校を牛耳っていると言っても決して過言では無いだろうが、案外世の中上手く回っているものだ。

その中でたった一人、姉崎だけが。


定例となったやり取りを思い出したのか、姉崎は小さく溜息をつきながら真っ白な包帯に手を伸ばす。
何とはなしにその手の細さと白さに目がいった。 先程掴んだ肩の細さが思い出される。

「百歩譲って金髪ピアスには目を瞑るとしても、あの非人道的行為だけはどうにかしてもらわなきゃ」

銃声が日常茶飯事の学校生活ってどう考えてもおかしいと思わない?と、至極真っ当な意見が述べられる。当然の言葉だけに、さすがにもう慣れた、とは返しかねた。 だが現に、チャイムの数より遥かに多い発砲があるのも事実だ。

このあいだだってね、と続ける姉崎に同意も反論もしかねて黙ったままでいた俺にふと顔を上げて、
痛い?まだ血が止まってなくて、と姉崎が悪いわけでもないのに心配そうな顔をする。
平気だ痛くはないと返すと、よかったと言って笑顔に変わる。
くるくる回る表情がどこか眩しかった。



「部活、もうすぐだよね。ごめん、もう済むから」



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