人魚姫の短剣
「純愛だって思わない?」
「結局無意味に泡になっただけじゃねえか。ありえねえほどのただの馬鹿だな」
「………ヒル魔くんに聞いたのが間違いだったかしら」
呆れたように顔を顰めると、ああ間違いだ。平然とそう返すところが憎たらしい。
「寝物語に御伽話、か?んな年でもねえだろーが」
それともあれか、未だてめえの頭はそのレベルか。成長したのは身体だけだな。
ケケケ、と笑う彼を軽く睨んで枕に頭を埋める。
そうして背中を向けた姿は拗ねているようにしか見えないだろう。
あなたがこんな御伽話に興味を持つとはとても思えなかったけど。
小さい頃は不思議でならなかった。
ただただ悲しいだけの物語。
他の御伽話のお姫様のように、どうして幸せな結末を向かえることができなかったのか。
今でもそれはわからないし、人魚姫がそれで幸せになれたのかなんてわからない。
それでも、私が人魚だったら、やっぱりあなたを刺せはしないと思う。
失った全てが返ってくるとしても、 あなたを、誰にも奪われずにすむとしても。
こんなふうに考えてしまう私は滑稽なのかもしれない。
そう思って、ふ、と小さく息を漏らした。
「声が出ねえなら行動で示せ。そうすりゃ気づいてやらねえこともねえ」
「え?」
「泡になって消えるくらいなら、刺し殺すぐらいの覚悟見せてみろよ」
突然の声に振り向くと、いつもと変わらない不敵な笑みがそこにはあって。
「俺は俺に刃向かった奴を、忘れたりしねえからな」
そう言いながら、ぐいっと身体を引き寄せられた。
ベッドのスプリングがぎしっと軋んだ音をたてる。
「……ヒル魔くんを殺せる人なんて、この世にいるのかしら」
「いねえな」
軽く返された言葉と暖かな体温に小さく笑いが込み上げる。
都合のいいようにとっちゃうよ?
黙って消えるなって、そう言う意味に思うじゃない。
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独善的な綺麗事は望まない。×