原点はチョコレートじゃない
「んなガキじみたことすんじゃねえよ!」
「ガキにガキ呼ばわりされてもなあ」
俺の手の届かない位置でひらひらと物を持ち上げてみせる。
ガキだろその姿はどう見たって。
ガキの俺から見たってまごうことなきガキの姿だ。
親がこれとは実に嘆かわしい。
「こんなもんに目くじら立ててんな。意地汚ぇとこはそっくりだ」
目くじら立ててんのは親父の方だろうが。
数分前まで確かに俺の手の中にあった物を、横から鮮やかに掠め取ったのはどこのどいつの仕業だ。
「つーかそれは俺のもんだろ!俺のもんに権利を主張して当然だ、不当に人の権利を侵害すんな」
「おーおーもっとガキらしい屁理屈のこね方しろよ。ガキの時分からそれじゃあ先が思いやられる」
そのうえ、可愛げがねえナァ実に嘆かわしいマジで俺のガキかテメー、なんて嘯きやがる。
取ってみろと言わんばかりに届きそうで届かない高さを実に正確に捉えて、俺を嘲笑うかのようなこの行動の何処かに可愛げがあんのか。
てめえのガキだ、んなもんそうそうあるわけもねえ。
つーかあったらあったでまた何だかんだ言うに決まってる。
それこそ気持ち悪ぃだのおぞましいだのから始まって、それはそれは素晴らしい悪言を物の見事に並べ立ててくれるだろう。頼みもしないがな。
なにせ揚げ足を取らせたら右に出る者はいない。
口が達者なのはその糞親父殿の教育の賜物だ、ちったあ誇れ。
もしもそんなことしてもらった日には嬉しくて嬉しくて感極まった挙句に気持ち悪くて吐きそうになるだろうよ。
「欲しいなら欲しいって言やいいだろーが」
至極当然。赤ん坊だって泣いて喚きゃミルクが人肌になって出て来ることを知ってんだ。
目の前の男ならもっと上手く立ち回れんじゃねえのか。
下手な俳優共なら鼻であしらえるほどの名優ぶり。
あぁあぁ、鼻が高ぇよ、こんなんが父親で。
「誰が欲しがるかこんなモン」
ああ言わねえだろうな絶対。口にするなんざもってのほかだろうな。
それが甘い匂いを振り撒く物だっつーなら尚更だろう。
よかったなぁ世の糞俳優共、てめえらの生活は当分安泰だ。泣いて喜べ。
ならすんなよこんな真似、と言いたいが
母さんがいないとこでやってるだけに実は相当根が深いんじゃないかと思う。
でも実際その根を作り出した原因は絶対間違いなく親父にあるはずだ。
毎年毎年趣向を凝らして作ってくれる母さんは本当に楽しそうだから。
まあ確かに多少は見せびらかした気もする、貰えてねえだろうことを全く承知で。
そこんとこに俺の非はあるしそこは素直に認める。
だが子供、たかがガキのやったことだ。情状酌量の余地は十分あるはずだ。
俺は全面無罪を主張する。
だからこの状況は全く不当だ。
俺がこんな目に合う謂れはない。それは俺のだ。
口にしねえくせに口にされんのは気に食わない、なんてそんな論理が罷り通っていいのかよ。
「端ッから数に入れられてねえのがそんなに気に食わねえのかよ!」
そこまで言ってはっと気付く。
どこか冗談めいていた空気が一変した。
しまった、これが地雷だったのか。
後から気付いてももう遅い。
明らかに親父の態度が変わった。
完全な八つ当たりのくせに。
どう考えても親父が悪いんだろ、
毎度毎度拒否すりゃ数に入れてもらえなくなるのは当たり前だろ、
そんなんで拗ねんな大人げねえ。
ガキの俺に言われりゃ世話ねえなあ!
だが言えない。
これは火に油どころかガソリンだ。
それはそれはよぉく燃えることだろうな、その手の中の物と一緒に!
それは避けたい絶対に。
これが親子の対話か触れ合いか。
スリルとサスペンスに満ち溢れてサービス満点じゃねえか今日は子供の日だったか、違うだろ。
ああちくしょう。
俺はこれから頭と体をフルに使ってこの糞親父を相手に物を死守しなけりゃならないのか。
火中に身を投じる、しかも油が注がれているその中に。
どんな勇者だ。
だが引かない。
もう食い意地なんてレベルじゃない。その物をくれたのは誰かっつうのが問題なんだ。
ここで引いたら男じゃねえしこの男に背中なんか向けられるか。
しかし物は既に奴の手の中。
その時点で俺に勝ち目はあんのか絶望的だ。
それでも逃げるか逃げてたまるか。
ああこれも目の前の糞親父殿の教育の賜物だありがとよ!!
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それはただの起爆剤×