「ねえねえ、これ見てまも姉!」
「なあに?あ、これこの前のインタビューの記事?」
「ここ、ここ見て!」
「え、これ?えっと、“好きなタイプは…”、」
「これが妖一兄のタイプなんだねえ、言い方がまたらしいけど!」

だってだってこんなの当てはまるのは一人しかいない。
世界広しといえど妖一兄のお眼鏡に適う人なんて。
そう期待に胸を躍らせながらまも姉の反応を待つ。


「ヒル魔くん、何もこんなひねた言い方しなくたって…」

これ全国誌でしょ?そう苦笑しながら雑誌の文字をなぞるまも姉を見て、思わずガッツポーズをしそうになった。
なんだやっぱり!
妖一兄ってば全国誌で告白したようなものじゃないか。ひねた言い方してるけど、結局のところタイプに当てはまる人が理想なんじゃなくて、まも姉が理想ってことじゃない、素直じゃないんだから。これじゃ名指しも同然。
あ、もしかしてそのつもり!?しかもしっかり本人に通じてるし!
やー!!これで晴れて二人は…、



「でもひねた言い方してるにしろ、“使える”ってヒル魔くん的にどういう基準なのかしらね?」
「え?」

そりゃあまも姉のことだと思うけど…っていうか基準も何も、それはまも姉のことを言ってるんだと…、なんて考えてるとまも姉は雑誌を机に置いてファイルを手に取る。そういえばさっきまとめとけ、って妖一兄に手渡されてたっけ。しかもむちゃくちゃ分厚い。それだけでもまも姉の有能さが如実にわかるそれを慣れた手つきで繰りながら、まも姉は続けて言う。

「ヒル魔くんの好みのタイプっていうか理想のハードル、とんでもなく高そうよね。だってただのマネージャーの私にも時々とんでもない要求するくらいだし」

ヒル魔くんの彼女になる人はきっと大変ね、なんて言う。

私は絶句した。絶句させられた。ただのマネージャー!?
違う、違うよまも姉!!それはとんでもない勘違いで…!

「あ、それとももうそんな有能な彼女がいる、とか?」

ああまも姉、誰より妖一兄のこと理解できるのになんでこんなにこういうことには疎いんだろう。
他意もなく、本当に他意もなくそんなことを言うまも姉になんだか無性に泣きたくなった。
だから違うよまも姉…!!そこに書いてあるのは紛れもなくまも姉の事で、確かにだいぶひねてはいるけどこれは全国誌での告白で!
通じてない、全然通じてないよ妖一兄…!ああもうひねくれすぎだよ妖一兄…!!


最高潮だったテンションが一気に地に落ちたショックの中(期待してた分だけ更に酷い)、しどろもどろになってまも姉に説明を試みる。

   これは妖一兄がちょっとだいぶひねてるだけで本当は…!

けれどまも姉は要領を得ない様子できょとんと小首を傾げる。
妖一兄がひねくれすぎなのか、まも姉が疎すぎなのか。
ちょっとどころじゃなく妖一兄が不憫に思える。だって、これはもう。


机に戻された、ファイルに比べてずっと薄っぺらな雑誌の文字をなぞる。まも姉がしたのと同じように。
“使える女”
目線を上げれば主務と化してるまも姉の姿。
まも姉以外に誰がいると。
妖一兄の半端じゃない要求を呑んでそれに応えられる女の人なんて、まも姉を差し置いて他に誰がいるんだろう。
ただのマネージャーなんかじゃないんだってば、まも姉は。



でももうさすがに話を蒸し返せる雰囲気じゃなくて(何より部活中だし)すごすご部室を出る。

「まも姉、」
「?なあに鈴音ちゃん?」

何が足りないんだろうなあ、って考えたけど出て来ない。
つまりは自覚なんだ。
でもそればっかりはどうしようもない。膝を突き合わせて話し合ってもこればっかりは。

「…うん、仕事、頑張って」

結局これしか言えなくて。
ありがとう、といつもの無償の笑顔が返って来る。


ねえ、まも姉、もう少し欲張ってもいいと思うよ。
与えるばっかりじゃ、なくたって。
自分の気持ちに気付いてあげて。



砂混じりのコンクリートの上でインラインスケートがじゃりっと音を立てる。もうすぐグラウンド。
後にした部室を振り仰ぐ。本当に、すぐの距離なのに。

私はチアだ。私に出来ることは少しのお節介と応援。
まも姉も、妖一兄も応援。せめて精一杯。



ねえでも妖一兄、出来れば次からはもう少しだけ素直になってあげて下さい。
たぶんそれが今のところ一番の近道。
たぶん、一番難しいだろうけど。





もどかしいくらい無欲なところ


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