ブチン、という音がして目の前のスクリーンが消えた。
映像が試合の最中だっただけに、停電だろうかとまもりはぼんやりと思う。それから次にヒル魔くんのパソコンは大丈夫なんだろうかと頭の片隅で思って、無用な考えだなと気付く。 こういう不測の事態にあっても、まず焦ることはない男はただ忌々しそうにするだけだろう。電力の供給自体が止まっているなら部室の電気だってつくわけがない。じっとしていることを余儀なくされたわけだ。さぞ彼の男は苛々を募らせていることだろう。とばっちりは受けたくないものだと盗み見るように暗闇に目を這わせる。
と、リモコンを投げ出したヒル魔と目が合った。

「いい加減その顔色と面、どうにかしろ」

その言葉に、ヒル魔がスクリーンの電源を落としたのだと気付くまでに3秒、まもりは時間を要した。


そしてその3秒でヒル魔の謂わんとしてることが解った分、解ってしまった分だけ自分の本心を自覚した。
隠してたつもりもないだけに、他人に指摘されて初めて自分自身で気付いた後では否定のしようがないものだ。まるで人を見透かしたかのようなヒル魔の言葉に根拠などなくとも、それを即座に打ち消すだけの言葉がまもりには見つからない。今の自分はどんな顔色をしているのか、自分ではっきりと自覚もできないまま、まもりはヒル魔の方に真っ直ぐ向き直ってみた。ヒル魔にはどう見えているのか知らないが、まだこの暗闇に目が慣れていないようでまもりは薄ぼんやりとした輪郭しか捉えられない。
暗闇で良かったと思う、けれど目の前の男には対して変わらないことかもしれなかった。それでも白日の下で自分の本心を引き出す羽目になるよりは幾分かマシに違いない。まして、この男に対してそれを隠したところで意味が無い。 まもりは暗闇の中で自分とは別に呼吸をする存在を感じながらも、自分に向かって言い聞かせる独り言のようにゆっくり言葉を発した。 ヒル魔にはその様がまるで幼子をあやす様であるかのように映った。

「戦ってる人にとってはね、自分たちがいただく人が勝利を目指して戦うことを恐れない、自分を信じてくれる、信じさせてくれる有能な指揮官だとね、いつまでだってどこまでだって戦っていけると思うのよ」

だけど、とまもりは息を吐くように言葉を止める。
暗闇の中でスクリーンの光景と対峙する行為は、見聞きするというより体験に近いというけれど、いつだってファインダー越し、レンズ越しにしか追えない自分にとって、それは詭弁に過ぎなかった。
今流れているのは映画とは違うのだ。今更ながらまもりはそれを思い知った。
明日にはこの光景は、目の前で行われる。


「戦えない私から一抹の不安は消えないのよ。どんなに優秀な指揮官をいただこうとね」

まもりの声には悲痛さも悲愴さも無く、どこまでも穏やかだった。 それだけに掴みどころがない。
掬いようが無い感情だと、まもりは自分の本心ながらに思った。本心なんて一つじゃない。それでも今気付いて口にしてみせたものは紛れもない本心ではあった。だからこそ口にしてどうなるものでもない。それだってわかっている。
自覚しているのかいないのか、暗闇の中でまもりは小さく微笑った。すくいようがない。

「でも信じてる。信じてるから。戦えない私は信じるしかないから」
「…………破って捨てたこと後悔してんのか」
「……してない。する気もないわ」

ならいい、闇に響いたその声とともに再びスクリーンがつけられた。
突然ついたまぶしく鮮明な光にまもりは目を焼かれるような気持ちで、何度か瞬きをした。けれど既に瞼の裏にも焼き付けられてしまった光を知るだけだった。簡単には消えない残像に無意識に目尻を擦る。
昼間のことを思い返し、この手で破り捨てた紙の感触と重さをもう一度思い出す。謝ったりなんかしない。まもりは口の中で呟く。それは彼も同じかそれ以上だ。謝ることはおろか、誤ることも出来やしない。

「ガキ共が戻ってくるまでにその顔色どうにかしとけ」
「うん、………」

目を射るスクリーンからの光はまるで照明のように自分たちの顔を照らしていたけれど、視線はもうどちらも互いには向けられてはいなかった。


「ついでにその顔も造形からしてどうにかしろと言いたいとこだがな。能天気を絵に描いたようなてめえが深刻な面して見せたって冗談にしかなんねえよ」
「……女の子の顔に対してそれはないわ」
「不細工な面晒してよくいう。それに輪をかけた女の泣き顔なんざ見れたもんじゃねえ最たるもんだろ」
「ヒル魔くん、女の子泣かせる男は最低よ」
「知るか」

「泣かさないでね」
「死ネ」


目の前で流れていく試合の風景は先ほどと変わらず、既に試合の主導権を完全に握った白秋の、蹂躙ともいうべき展開が目の前で繰り返されている。
ヒル魔とまもりの視線は、暗闇の中、ただそれを追った。







群青走駆