「もっとデリカシーのある人に会いたかった」

みるからにおんぼろのブランコが、キィと耳障りな音を立てる。
悪趣味に塗りたくられた黄色はところどころ剥げて錆びている。  

「ほう、例え ば?」
「例えば、セナとか」
「あんな小市民なんざより俺を遣わせた偶然に感謝しろよ」

本当に偶然。たまたま通り掛かった寂れた公園の ブランコを陣取ったこのうえなく不審な女を目にしたのは。
夕暮れ時で人気もない。
こんな趣味の悪いものに一人乗っかって、酷く憂いを感じさせ る面持ちの場違いな女子高生。
明日からここは怪談スポットだな。不気味にもほどがある。
そう思い足を止めたのはつい5分前。


「何よ、慰めるなんて芸当できないくせに」
「目の前で馬鹿にするぐらいならできるぜ?」

ブランコの周りの囲いに腰掛けると、年老いた金属がぎしっと呻き声のようなものをあげ、
その拍子にブランコ全体が軋む。
この老朽化した遊具には大人二人分の重さに耐えられないのだろう。
そもそも本来こ いつの用途は頭も身体も軽いお子様どもの遊び道具。
だが今の世にこんなものに好き好んで乗る奴なんざ、怖い者知らずのガキにだってそういない。  

「私がどれだけ傷ついてるか分かってないでしょう!」
「分かるか」

まあこんな時間にこんな場所で、一人どん底にいる馬鹿さ加減は知ってるが。

「今どれだけ辛いか悲しいか…ヒル魔くんには分からないのよ。
こんなに何かを好きになったことのないあなたには」
「アメフト」

しれっと言い返してやると深い深い溜息を吐き出しながら足元を見つめる。


「ああそうねアメフトね。寝ても覚めてもアメフト一筋。なら私の気持ちも少しは分かってよ」

女の膝の上で握り締めた手の中で、くしゃりと紙が歪められる。
ついでスカートの裾が僅かに上がった。
シワになんぞ、とでも言おうと思ったが脈絡もねえし、何よりなかなか眺めも悪くないので止めた。


「てめえのと俺のアメフトと一緒にすんじゃねえよ」
「…やっぱり分かってない」


明日からどうやって生きていけばいいんだろう、そう悲壮な声で女は呟く。
この世の終わりみたいな顔してんじゃねえよ馬鹿。
女の手の中で原型を 失った紙切れから覗く改装、休業の文字。
こんなくだらない言葉で世界が終わるってのか、どんな世界だそりゃ。
シュークリームが食えないだけで 死なれてたまるか。

ミシミシギシギシ鳴り続ける錆びれた遊具。
面白がってはいるが実は面白くないこの状況。


シュークリーム一つにここまで愛を傾けら れるこの女をさてどうするか。



軋む音がする