ガチリと音がしてまるで砂を噛んだような気分になった。冷たい金属の味がする。
すくいとったプリンはとっくに舌の上で溶けて流れてしまっていた。



金属のスプーンが好きだった。そのひんやりとした感触と、何よりそのものの姿形が好きだった。
神秘的なまでに美しいと思う。そのなめらかに描かれた曲線は優美であるのに、その姿はどこまでも凛と冴えわたる粛然さを持っている。その点では木のスプーンもプラスチックのスプーンも敵いはしない。あの張り詰めた美しさには。
しかし、そうはいっても惹かれるのはアンティークたる造形美にではない。日常の中にあるカトラリーとの一つして、飾り気のないものこそが好ましい。シンプルであればあるほど、それは洗練された怜悧さを秘めてひそやかに冷たく光るのだ。
いっそ素っ気無いほど単純であるからこそ、その姿をただ純粋に美しいと思うのだ。

それでもそれらのことを、今まで常々考えていたわけではない。
でも何故か今思い至ってしまったのだ。


(あれも、同じような光沢で光っていた)

ガチリ。また歯に当たる。舐めたところで味はしない。寧ろ、まさしく砂を噛んだようだ。
甘さに酔った舌さえも金属に負けてしまった。

あの銀色もそうなのだろうか。銀のスプーンはまだ銜えたままに考えた。
あの男を穿つ金属もまた、同じようなのだろうか。
そうして緩やかに描かれたカーブを思う。鈍く光る様を思う。

ガチっ。今度は頭にまで響く。少し涙目になった。


 まもり、どうかしたの?ダイニングから聞こえる声。ううん、なんでもないよと返す声。


口から離した銀色の小さなスプーンは冷たく光って濡れていた。
一分の隙もない姿だと思う。丸みを帯びた姿に可愛らしさは確かにあるのにどこか冷艶。
元よりスプーンを噛む癖なんてない。行儀の点からしたって好まし いとは思えない。
どちらかというと嫌なものだ。先程のように。それなのに。

口寂しさを覚える前にプリンにさし、すくう。あの穿たれた金属には到底出来ない真似だ。
さすだけさして、すくうことを知らない。


とろりと形を崩したものを口へと運ぶ。甘さがまた舌を酔わせた。
もう金属の味はしない。
あるのはスプーン一杯分の幸せ。それだけで十分満たされることが出来る。
美しさは美しさとして、スプーンが偉大だと思えるのはやはりこの瞬間に尽きる。
単純、けれどそれでいいのだ。
ソファに身体を預けて寝そべる。満たされるだけの至福ならばここにある。




テーブルの上の携帯が鳴った。


ガチリ。砂を噛む。


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Be born with a silverspoon in one's mouth
銀のスプーンをくわえて生まれてくる(幸運に生まれつく)

銀のスプーンをくわえていられればそれで幸せなんだと