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別にどうしようと思ったわけではない。いずれ本格的に冬が来れば枯れてしまうだろうこれらの花は、折り取ってなお咲き誇るのだろうか、と不意に疑念に思ったのだ。いずれにせよ惨めに枯れていってしまうのだろうかと。どこぞの歌人のようにこの花に何かを思ったわけではなかった。 ただ別に、何となく手持ち無沙汰だったからだった。何の理由も何の意味もなく。アメフトボールを掴んでいるわけでもなく銃器を握ってるわけでもない空の手が何となく行き場を求めたのだ。ただ、その先にあったというだけのことで。 生来、暇を持て余すということが、非生産的で非効率的で、無駄を嫌う性分にしてはどうにも苦手だ。生産してるのは争い事ばっかりでしょ。と、どこかで聞いたような知った風な口を聞く奴がいた。 あれも、俺から見れば無駄ばかりを生産する女だった。 放っておけば花も咲いたろうに。手遊びの如くの手を止めることなく思う。盛りにはほど遠いそれだって、こうして手折れば最後、あとは惨めに枯れる運命しか残らない。 それと知ってか知らずか、こうして自分が手折った事には何かの感慨も持ち合わせることは無かったが。 ヒル魔くんにはないのかしら、情緒を解する心。 あったところでてめえはまたうだうだ騒ぐだろうが。 そうね、騒ぐでしょうね。…でもね、騒いで騒いだ後にはきっと嬉しいって感じるのよ私は。 たかが花だろ。 そうね、ただの花。 いつだか口を衝くまま言葉にした会話を思う。それはどこにでも潜んだ日常と呼ぶには逆説的な存在を有した情景で、それでも習慣化した情景でもあった。そしてあった筈の話の前後は忘れた。そんな程度に習慣化した漫ろ言に過ぎないものは多くある。有り体に云えば顔を突き合わした数だけあると云って過言でない。 唐突に思い出された情景と会話の一片に、花が出て来るからにはたぶん花でも愛でていたんだろう。勿論あの女一人に限ってのことではあるが。 そうしてあれは何の花であったか。それを思い出す努力もする気はないが、群れ咲くそれらは花特有の、とでも云うのだろうか、随分と甘ったるい匂いを放っていて思わず顔を顰めたように思う。種を残すためだけに、よくもああまで自己主張ができるものだ。花の美などより、そちらの方がよっぽど感心に値する。良かれ悪しかれ、その存在に一度は目を向けてしまう。 けれどやはりそれらは俺には有象無象で、いずれ埋もれる有象無象を愛でる趣味は俺には無い。素通りすればそれで終いだ。 何であれ記号を解する ことは容易い。ただそこに何らかの意味をのせることに俺は意味を見出し得ない。 たとえば先の場面、会話の最後に女は、気障りもしてない顔と目で涼やかに笑った。 そこに何の意味がある。 とまあいつだって一事が万事そんな調子であれば噛み合うものも噛み合わない。しかしそれすら習慣化していたから殊更何を云うでもない。今更何を思うでもない。間で停滞していたものがあるとして、それはあまりに些細で煩雑で、凝視するにも満たなかった。 俺と花。それに加えて、一輪の、という修飾語なるものはなんともまあ可愛らしい響きであることだ。それを思って眉を顰めるでもなく、それすら俯瞰として考える。似合う似合わないどころでの話ではないが、この様を見たら何というだろう。 情緒を解するようにでもなったのかと、やはりうだうだ驚き騒ぐだろうか果たして。 暫く眺めるでもなく手遊びのように手の中で転がしてもみたが、やはり手慰みにもならない。 これとて所詮は有象無象の一部に過ぎず。いずれどこかで朽ちて埋もれるもの。 そう思えば何だってそれまでだ。 飽きたものとして手放した。かさり、と乾いた音で足元に落ちる。一輪。 大仰そうな花たちの中に落ちたそれは酷く不釣合いにも見えた。 それにだって何の理由も理屈も、まして意味も無いのだ。たとえば此処にいることも。 たとえば、此処にいないことも。 折り取った菊の花 |