15 相互理解の法則


「痛!」
「たかだか一晩でアメフト理解した気になってんじゃねえぞ」
「別にそんなこと思ってないです!」
「ほー」
「…何よ、そもそも三本勝負から逃げたのはヒル魔くんの方じゃない」
「ボロ出さなくて済んだのはてめえだろ」
「じゃあ今からだっていいわよ、昨日の続き」
「浅知恵に付き合ってられるほど暇じゃねえよ」
「っていうか本の角で叩かないで下さい」
「それでダメになる頭なら端からいらねえな」
「あ、ちょっと!投げるのもなし!」

まもり姉ちゃんの頭に(しかも選りによって角で)ぶつけた本を投げ捨て、後も見ずにとっとと部室を出て行くヒル魔さん。全くもう、とその勝手気儘さに呆れているのか怒っているのか、カジノ台に無造作に放り投げられた本を拾い上げるまもり姉ちゃん。
何が火種になるのか分からず、またいつ導火線に火が付くのか分からない2人のやり取りに、昨日の今日で僕は未だに慣れることも出来ずにいるわけだけど。

「セナ、読むならこっちの方がいいみたい」
はい、と渡されたのはアメフトのルールブック。

今の会話でどうしてその着地点に行けるのか、僕には一生かかっても分かりそうもない。


(相互理解の法則)




16 勝手に歩けこっちを見るな


正反対なのよヒル魔くん。
何が。

にやん、と笑った顔はさも愉快そうで何故かこちらの不快指数を上げた。

「だから、正反対なのよ。私達」
「分かってんのな」
「分かってないの?」
「いーや、分かってるぜ?」

ぴたり、と足を止める。空の右手が今来た道を指す。
あっち、だなあ?
踵を返すのを待ってるとでもいうかのように男は憮然と空の右手をポケットにつっこむ。
何か出て来るか、と少し身構えてみたりしたがどうやら男にそんな気は無いらしい。
今更奇を衒うまでもないとでもいうように。 お膳立ては全て済んだとでもいうように。
しかもそれだって、私一人が繰り返した幾度の逡巡を、男は黙って笑って見ているだけで良かったのだ。

「…むかつくわ」
「何が」

何が。何がですって。
例えば今目の前にいる男。例えば今目の前にある状況。例えば日も暮れた帰り道。例えば自分の家とは真逆の方向。例えば眼下に私を見下し選択を促すこの男。

不遜な左手が何を掴んでいるのか、分かっているのだろうか。


(勝手に歩けこっちを見るな)